やりがい

誰のために
面倒な人間関係に挑む
誰のために
睡眠時間を削る
何のために
苦情に耐える

「お客様の『ありがとう』がやりがいです」
「家族の笑顔がやりがいです」
「自分の意思が反映されることがやりがいです」

浦島太郎は玉手箱を開けた後
生き抜いたのか
あきらめたのか
煙の中に浮かんだ気がした
乙姫の笑顔

水中で繰り返し
息を止め続けるような毎日
酸素が薄れて
うまく泳げない
酸素が薄れて
意識が薄れ

眠るように
まどろむように
お客様のありがとうに溺れたい
煙の中に浮かんだ気がした
昔の家族の笑顔
憎悪

意思薄弱と
抑鬱に押し流され
呼吸の感覚がわからない
溺れる音も聞こえない
沈んでいく玉手箱
ぼやけた笑顔