血縁
三日月の夜に
あなたの声を聞く
罵倒と憎悪と軽蔑の過去は
今も消えない けれど
相変わらずの貧困ぶりで
いつの間にやら還暦も過ぎて
「お前の自転車を貸してくれ」
わざわざ電話するなよ
借金まみれの
あなたはなぜいつも
穏やかに笑う
過去を踏みつけたまま なのに
憎んでいたはずのあなたよ
嘘つきで卑怯、駄目人間のあなたよ
「また就職決まらなかった」
わざわざ電話するなよ
大嫌いなアイデンティティが襲ってくる
捨てた基盤が手を広げて追いかけてくる
距離を置くと見えてくるものがある
時間を置くと気付いてしまうものがある
どんなに否定しても
どんなに蔑んでも
心の底で求めていることがある
心の底から願っていることがある